真夜中プリズム
「宮野真夏」
ふと、隣に立つ人が言った。振り向くと「おれの名前」と続けて言う。
や、知ってるけど。きみの名前を知らない人なんてウチの学校にいるのかな。たぶん、いないと思う。
「センパイは?」
真っ直ぐに目が合った。あ、と思う。
今までこんなに近くで見たことなかったし、手足が長いから気づかなかったけど。案外、背が低いんだ。思っていたよりもずっと、あたしと目線が近い。
栗色の髪の毛は柔らかそうで。鼻とかくちびるも小さくて、女の子みたいで。目が、すごく、透明で。
「あれ? 違う?」
そんなことを考えていたせいですぐには答えなかったあたしを、宮野真夏は勘違いしたらしい。こてんと、柴犬の子犬みたいにかわいく首を傾げた。
「センパイだよね。リボン赤いし」
「え、あ」
宮野真夏が自分のネクタイをつんと指差す。
彼のそれは1年生の緑。あたしの胸元のリボンは、2年生を示す赤色だ。
「あ、そうです、センパイです」
慌てて答えた。でもなんで敬語。今の、変なおじさんです、みたい。
「だよね、キョトンとしてたから、違うのかと思った」
「あの、ちょっと、別のこと考えてたから」
何考えてたの、なんて、別に宮野真夏は訊かなかった。続けて言ったのは「センパイの名前は?」って。
絵奈に言ったら死ぬほどうらやましがられるだろうなあ。宮野真夏に名前訊かれた、なんて。めんどくさいから、言わないけど。