真夜中プリズム
「どしたの、昴(すばる)」
ふと気づくと、前の席の絵奈(えな)が不思議そうな顔で覗いていた。
机の上には配られてきたらしい数学のプリント。この先生の授業はいつもこれだ。最初にちょっと教科書を見てから、あとは延々とプリントの問題を解かされる。生徒にはちょっと不評だけど、自分のペースでやれる分あたしはそんなに嫌じゃない。
「どしたのって、何が?」
机の隅に転がっていたお気に入りのシャーペンを拾った。プリントの右上の欄にクラスと名前を機械みたいに淡々とつづる。2年1組、篠崎昴。
「だって昴、ぼーっとしてるんだもん。窓の外向いたまんま、プリント置いたのも気づかないし」
「あー……」
「あたしがじっと見ててもさ、しばらく気づいてくれないし。こんな熱視線送ってたのに」
「何、熱視線って」
「あつぅいまなざし」
「あは、やめてよ」
近づいてくる強めの目力に、ちょっと顔を引きながらぷくくって笑えば、絵奈は不満そうなふくれっ面をしながらあたしのプリントの隅にブサイクな猫(らしきもの)の落書きをした。
「ちょっとこれ、提出するやつなんだけど」
「このかわいいの見て、先生点あげてくれるかもよ」
「あげてくれるわけないじゃん、嫌がらせ禁止」
「だって昴が無視してくるから。一体あたしを差し置いてどこの何を見てたんだか」
「見てたって言うか……なんか暑いなーって思ってただけよ。ほんと、ぼーっとしてただけ」
絵奈が「へえ」と口の中で呟く。