真夜中プリズム
絵奈があたしの机に頬杖を突いたまま首を傾げる。教卓からの先生の視線がちょっと痛くなってきたけど、目を合わせないようにして絵奈に答えた。
「思ってるし、興味ないわけでもないよ。ただあたしも絵奈と一緒で、遠くからたまに見かけるだけでいいかな」
「あー、だよねー。それくらいが丁度いいよ。あんな美人さん、しょっちゅう見てたらあたし自信なくしそうだし」
「あは、何それ、そんな理由?」
「だって女装させたら絶対あたしより可愛いでしょ」
「絵奈だって美人じゃん、自信持ちなって」
「お、ホントに? 信じちゃうよその言葉」
絵奈が笑う。そして、先生の咳ばらいが聞こえたところでようやく慌てて座り直し、前を向いた。
あたしは、絵奈の細い背中に付いた髪の毛を払ってから、こつんとひとつめの問題の上にシャーペンの先を落として、そのまま、もう一度、グラウンドの上に目を向ける。
歩いているみたいにゆっくりコートを走っている姿に、目も合わせられないくせに、女の子たちはいつまでも手を振って騒いでいる。
うん、近づくのは、やっぱりイヤだなあ。
だって、あんなに。あんなにたくさんの人の注目を常に受け続けるの、絶対、すごく、大変だろうから。
「…………」
また、高い声がここまで届いたところで、シャーペンを持ち直してプリントと向き合った。
まあ、何考えたってどうせ関わらない人だし。
覚えたばかりの公式を、プリントの空白に適当に書いた。