真夜中プリズム
◇
「じゃあ昴、あたしもう行くね」
帰りのホームルームも終わり、放課後。
絵奈は、先生のあいさつが終わった途端、早々にカバンに必要なものだけを詰めて軽そうなそれを背負った。
一緒に手に持つのはテニス部メンバーお揃いのジャージと、大事な道具の入ったラケットケース。
少しだけ、乾いた砂の匂いがする。
「うん、行ってらっしゃい。大会近いんだっけ?」
「来週だよー。もうほんと、せっかくレギュラーになれたんだもん、死ぬ気でやんないとね」
絵奈が、くしゃりとした顔で笑う。同時に開いた窓から吹いた風が、日に焼けた絵奈の短い髪を揺らした。
眩しいなあ。見上げながらそう思う。
わりと飄々とした性格だけれど、部活のこととなると絵奈は人が変わったようになる。それだけに打ち込んで、誰より努力を惜しまなくて。
大好きなテニスに全力で取り組んで前だけを向き続ける絵奈の姿は、とてもキラキラしていて、ときどき、あたしには眩しすぎる。
「応援してるよ絵奈。頑張って」
あたしが言うと、絵奈はほんの少しだけ複雑そうな顔をした。でもすぐに、いつもの明るい表情に戻って、握った右手をあたしの前に突き出した。
「ありがと昴。あたし頑張るからね」
「うん」
絵奈の作ったグーに、あたしのグーをごつんとぶつける。
また明日、って、絵奈を見送ったあと、開けっ放しの窓の外からは、夏の気配の匂いがしていた。