I love you に代わる言葉


 登校し下駄箱の近くまで行くと、今井がしゃがみ込んでいるのが見え、思わず足を止める。眉を寄せ険しい表情で地面を睨みつけるように見て、微動だにしない。まさかボクを待っているのか。あいつは何処まで馬鹿なんだ。
 ボクは溜息を一つついて、ゆっくりと今井に歩み寄った。
 傍で立ち止まり今井を見下ろす。突然降り掛かった影に今井は不審そうに眉を寄せながら、こちらを見上げてきた。影の主がボクである事に気付くと、それはもう酷く驚いた様子だった。
「日生っ、来たのか……!」
 歓喜に満ち溢れた表情で勢いよく立ち上がるが、その表情は刹那に消え去り、一変してその表情はきょとんとしたものになった。今井はボクの持っているスポーツバッグを凝視し固まる。
「……何だその荷物?」
 予想通りの言葉。昨日とは逆転した光景。いや、今日ボクが持っている荷物の方が、昨日今井が持っていた荷物より遥かに多く、それはもう不自然な光景だろう。今日からテスト期間。部活動は中止。その上ボクは何処にも所属していない。なのにスポーツバッグを持って登校しているんだからな。通学鞄も教材が詰め込まれていて、ただ登校するには相当量の荷物だ。好奇の眼差しを向けてくる者も少なくなかった。
「――ねぇ、悪いんだけど、今日アンタの家に泊まらせてくれない?」
 未だポカンとした間抜け面を続けている今井にそう声を掛ければ、更にポカンとしていた。
 聞いているのかこいつ、と思い顔を顰めれば、今井は驚愕の声を上げた。
「うぇ!? お前が俺に頼み事!?」
 漫画によくある一歩後ずさった驚き方。呆れた視線を送りながら「アンタ殴られたいの?」と言えば、今井は「待て待て!」と言って両の掌をボクに向けて引き攣った笑みを浮かべていた。
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