I love you に代わる言葉
「――で? どうなのさ」
 肩に掛けていたスポーツバッグを足元に下ろし、靴を靴箱に入れ、上履きを出しながら問う。とても人にものを頼む態度じゃないと今井は思ったのか、苦笑を洩らし、「頼み事する時も、日生はやっぱ日生なんだな」と言った。そして続ける。
「別に俺ん家泊まるのはいいけどよ……その荷物、明らかに一泊の量じゃないだろ。どう見ても荷物を纏めて出て来ましたって感じじゃねーか」
 今井の言葉に、段々と表情が険しくなるのを自分で感じていた。今井もまた表情を曇らせ、言葉を紡ごうと口を開いたが、そこには躊躇いが窺えた。
「……まさかお前……、昨日、の事、があったから……家を出たのか……?」
 躊躇いがちに、言葉を不自然に区切りながら今井は尋ねてくる。禁句とも言える昨日の出来事をそれでも口にしたのは、ボクの行動があまりに突拍子も無く無謀に思えたからだろう。
 自分でも解っている、どう考えても無謀だ。社会人じゃないから経済面において自活など不可能だ。バイトをし、ある程度自分で稼ぐつもりだが、学生が稼げる金額など高が知れている。当分はまだ祖母(名ばかりの)の金を頼りに生活しなければならないだろう。
 正直、家を出ても行く宛など無い。偉そうに言ったが、今井の家に泊まらせて貰えなければどうしようかと思った。だけど今井の家も長期間は無理だろう。今日一泊して、その間に目処が立つとも思えないが、それでもボクは。
「……あんな場所に、居られないからね」
 悶々と思考を巡らせた後、表情を険しくさせて答えれば、つられる様に今井も表情を険しくさせた。そこにはやるせなさがありありと浮かんでいる。それでもそれが浮かんでいたのはほんの僅かなもので、今井はすぐに明るい表情を見せた。
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