I love you に代わる言葉


 一組の教室を目前とした所でつと視線を上げれば、教室前に、シンと名乗った男がいた。あいつはこちらに背を向けているが、ボクにはそれがシンである事が一目で解った。
 何やら教室内を見やり、そこから出てきたメガネをかけた男子生徒を呼び止めている。
 あいつを知っているかと今井に尋ねようと横を向けば、今井も同じ人物を見ている事が解った。そして言った。
「日生」そう呼んだ後に、「あいつが昨日話した『笹山』だ」
 顎をしゃくってシンを指す。
 ボクは驚きのあまり足を止め、今井とシンとを交互に見やった。今井はどうしたんだと言わんばかりに目を見開き、ボクと同様立ち止まる。
 ――……どういう事だ? こいつは昨日、名を『ササヤママコト』と言った。だがあいつは『シン』と名乗ったんだ。
 シン、マコト……。
 そしてハッとする。――そうか。そうだったのか。
 二つの名を頭の中に並べて、漸く合点がいった。
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