I love you に代わる言葉
 あいつの名は恐らく――『笹山真』。


 今井が読み方を『マコト』と勘違いしているんだ。何故昨日すぐにそれに気が付かなかったんだろう。
 笹山真。あいつは多分――いや、十中八九おねーさんの弟だ。
 あいつと初めて会った時、誰かに似ていると思った。そう、それはおねーさんだったんだ(尤も、それに気付いたのは今だが)。
 だけど、顔がそっくりという訳ではなかった。相違点を挙げるなら、目と髪色か。
 おねーさんは優しい性格をその目に宿したかのように、やや垂れ目で丸みのある目だ。だが、あいつはやや釣り目だ。二重でパッチリした所は共通するが、あいつはもう少し目尻がスッと流れて鋭利な印象だ。
 髪はおねーさんもあいつも染色されていない綺麗な黒髪だ。だからこそ相違点に気付く。おねーさんはボクと同じく、色素の薄いやや茶を帯びた黒髪だが、あいつは漆黒だ。その漆黒は、闇を連想させる黒じゃなく、光を連想させる黒。単なる髪艶云々じゃなく。
 類似点は鼻と口元か。鼻がスッと綺麗に伸びている所と、小さめの口と形が何となく似ている。フッと笑みを浮かべる時に上がる口角は、あいつもおねーさんと同様、不適なものではなく何処となく品がある。
 全体的にあいつの方が固く引き締まって見えるが、それはやはり男女の差だろう。おねーさんは穏やかでふわりとしているから、それは女特有の丸みが物語るものだろうと思う。
 ――以上から、あいつはおねーさんの弟であるとボクは確信する。
 瞬時にそれらを思考し、その結論を導き出せば、ボクの心内はただ焦燥感を覚える。
 保健室での会話を、ボクは弟に聞かれてしまった事になるんだ。ボクの名を確認し、自分の名字を名乗らなかったのだから間違いないだろう。
 ボクはあいつの持つ雰囲気から、あいつは鈍感でも天然でも馬鹿でもないと確信する。何の根拠もないが、やはり確信出来る。
 それならばどうなる? あの時、ボクはおねーさんが好きなんだと認める発言をしなかったものの、それでも会話から葛藤する感情は窺えた筈だ。あいつは、『日生という奴は自分の気持ちを認めないが、あの様子だと姉を好いているんだろう』と考えた筈なんだ。自分の姉を指す言葉を耳にすれば、姉に対する好悪など関係無く、誰だって会話に耳を傾ける筈だからな。
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