I love you に代わる言葉
「……笹山真。アンタ、姉がいるだろ」
 ボクの前で立ち止まったこいつにそう問えば、肯定も否定もせず、口元に薄く笑みを浮かべただけだった。
 笹山真の鋭い眼光は、ボクの双眸を捉え、何かを探るようだ。そう、それはまるでボクを見定めているかの様な。
 挑むような目付きでこちらも相手をじっと見つめれば、突然笹山真はフッと小さく笑った。口元に笑みを湛えたまま、ゆっくりと目を伏せ、そしてまたボクを見た。そして口を開く。
「そう睨むなよ。――その様子だと、俺が誰だか解ったみたいだな」
 落ち着いた声と口調。程よく低音なそれは、何とも耳に心地よく、窓から入る風と共にさらりと流れて届く。
「ボクに用があったんだろ。何なのさ」
 笹山真の言葉には敢えて何も答えなかった。この場合、それは即ち肯定であり、相手もそれを理解しているだろう。笹山真は、またゆっくりと口を開いた。
「あんたに聞きたい事があったんだ。“あの時”の事は全てあんたにバレてるんだろ? ――俺の事も」
 ボクは何も答えなかった。ただじっと睨むように相手の目を見る。すると笹山真の双眸は、フッと穏やかなものに変わった。それと同時に言葉を放つ。


「――あの時の気持ちに、答えは出たか?」


 そう、静かに問い掛けてきた。
 ボクは驚いて言葉を失ってしまった。
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