I love you に代わる言葉
「俺はそれを聞きたくてあんたを呼んだ。あんたの言う通り俺には姉がいる。あんた達が“あの時”話してた笹山だ。――笹山花恋」
 解っていた事だが、改めて名を告げられれば、心臓がドキリと跳ねる。
 やはり何もかも、こいつに聞かれていた。こちらが何もかも悟った事を、同時にこいつも悟っている。
 思い切り眉を寄せれば、笹山真はまたもフッと笑みを零した。
「安心しろよ。誰にも言ってねぇし、これからも喋るつもりはねぇ。言うまでもねぇが、本人にも、だ。さっきも言ったが、俺はただ確認したいだけだ。――それで? 答えは出たのか?」
「それをアンタに言ってどうなる」
 まるで敵意でも向けるように刺々しい口調で言うが、それでも笹山真は苦笑を漏らすだけだった。
「返答次第で俺の取るべき行動が変わる、そんな所か。あんたにとっちゃ意味が解らねぇだろうがな」
 こいつの言うように、解せなかった。ただ無言で険しい表情のままこいつを見るが、こいつは終始余裕を見せ付けた。
「もう時間がねぇから、帰りにまた来る。その時に聞かせてくれ。――じゃあな」
 笹山真はそう言ってスッとボクの横を通り過ぎて行った。
 ややあってから去って行った方向を振り返れば、笹山真はポケットに手を突っ込みながらも颯爽と歩いていた。
 今日も左耳に三つのピアスが付いていた。内側にある羽根の形をしたピアスが、動く度に不規則に揺れてキラリと光る。
 おねーさんの身内は、それこそおねーさんのように品行方正のイメージが強かった。ああいった容姿の身内など想定外だったが、やはり育ちの良さは感じられるな。
 廊下で群れを成す女子の数人がその様子をちらりと目で追う姿が、ボクの目に映る。その様子は明らかに恋慕の類だと疎いボクにも解った。だけどあいつに近寄れなくて遠巻きに見物するしか出来ないんだろう。



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