I love you に代わる言葉


 本日行われた四時間のテストは終了した。
 今朝のあいつの発言で心が乱されテストに集中出来なかった、という漫画みたいな事は起こる事も無く。テストが始まれば案外スッと霧散するものだ。
 帰り支度を整えながら、後ろの扉に目をやるが、笹山真はまだ来ていないようだった。
 また来ると言ったのだから此処で待つべきなのか。そもそも何処で話すつもりなのか。外に出るなら自分が六組まで行った方があいつの手間が省けると思うんだけど。
 そんな事を考えていると、今井がやって来た。
 今井には全て報告済みだ。先日保健室であいつに会った事、先刻あいつと交わした言葉、続きをこれから話すという事も。
 どうせしつこく聞いてくるだろうし、まぁ、世話になる以上話さない訳には行かないからね。
 今井は多少の驚きを感じていたようだが、意外に冷静だった。弟だと告げれば「ああやっぱりな」とそれだけだった。今井から見れば全てが似ているらしい。
「来ねぇな。六組まだ終わってねぇのかな」
 今井はそう言って扉に目をやる。ボクは特に返事はしなかった。
「あいつの悪い噂なんて聞いた事ねぇし、悪い話じゃないと思うぞ」
「まぁ、悪い奴には見えなかったよ。ただ、奴の企みは気になるね」
 そう言うと、今井は渋い顔をした。ボクの猜疑心を複雑に思う心境から出たものだろう。
「お。来たぜ」
 今井の視線を辿り後ろの扉を見れば、笹山真はそこに立っていた。
「アンタは下駄箱付近で待ってなよ。――得意だろ? あそこで待つの」
 そう言ってにやりと口元に笑みを作れば、怒るかと思ったが今井は何故か驚いていた。
 ボクは笹山真の元へ向かい歩き出す。そこでふと今朝と違って荷物が少ない事を思い出すと、今井を振り返り「悪いけどボクのスポーツバッグもそこまで運んどいてくれる?」と言っておいた。
 それには怒ったようで、背後からギャアギャア喚かれたが、無視しておいた。
「――今回のテスト難しかったな。ああ、いつも上位の日生様にとっちゃ楽勝だったな」
 歩み寄るなり笹山真は悪戯っぽい笑みを向けそんな事を言ってきた。ボクは目を吊り上げ睨みつけた。
「アンタもボクと順位はそう変わらないだろ」
「俺の順位知ってるのか?」
「知らないよ。アンタが馬鹿に見えないだけさ」
「そうか」
「そんな話はどうでもいいさ。――さっさと本題に入りたいんだけど」
「ここでいいのか?」
 問われ辺りを軽く見渡した。疎らだが生徒はまだ残っている。
「――場所を変えよう」
 そう言ってボク等は移動する事にした。



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