I love you に代わる言葉
「――で、どうすんだ?」


 扇風機の電源を点けながら今井は尋ねてきた。
 此処に来る道中に話した、笹山真との会話の事を言っているんだろう。
 ボクは結局答えを出していなく、笹山真にも保留にしたままだ。あいつの話は、正直言えば有り難いものだ。偽りでもないだろう。だが、相手はおねーさんだ。弟だから、確実な情報と助力が得られるだろうが、そんな単純なものじゃない。ハッキリ言って無理だ、ボクとおねーさんじゃ。良くて弟のように接してくれるくらいだろう。
 だけどあいつの言葉が気になる。


『あんたなら、姉を救える』


「救える、って、どういう意味だろうな」
 右手に箸を、左手にカップラーメンを持ち、今井がポツリと呟いた。同じ事を考えていた事に少なからず驚いた。
「考えられるのは……トラウマからの解放、か」
 そう言うと、今井は「トラウマ?」と鸚鵡返しに尋ねた。
「恐らくおねーさんは過去に何かあったんだ。癒えない傷、とかね。あいつはそれを救ってやりたいと考えた」
「何かって何だ? まさか男性恐怖症ってやつか?」
「いや、それならボク等だって拒む素振りを見せるだろうし、そもそも接客業に就ける筈がない」
「ああ、なるほどな」
 今井はそう言ってラーメンをズズッと啜った。
『救える』という言葉だけでは特定は不可能だが、おねーさんに何かあったのは間違いないだろう。何から救ってやりたいんだ? 男を拒んでいる訳ではないなら、彼氏を作る事を拒んでいる……? それは即ち何を意味する? ――いや。
「……それだけじゃない」
「は?」
 不思議そうに目を丸くして問われ、ハッとして今井を見た。しまった、声に出してしまったようだ。
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