I love you に代わる言葉


 登校して下駄箱へ向かえば、そこには笹山真が居た。鞄を持っているから、たった今到着したんだろう。
「お。笹山だ」
 今井が発した声が本人に届いたらしく、笹山真はこちらを向いた。
 ボク等を見て一瞬きょとんとした表情を見せたが、
「仲いいんだな」
 そう言ってすぐに穏やかな笑みを口元に浮かべた。
「別に。まぁこいつに少し世話になってるけど、特別仲良しって訳じゃないよ」
「お前な! 少しくらい肯定してくれてもいいだろ」
「アンタさ、ボクが「ああ、仲良しだよ」なんて言ったら気持ち悪いだろ」
「うっ……まぁな」
 言った所を想像したのか、今井の表情が引き攣った。
 ボク等のやり取りを見ていた笹山真が、突然くくっと目を細めて笑った。それを見て今度は、ボク等がきょとんとする番だった。笹山真は、笑いを噛み殺す仕草をすると、口を開いた。
「十分仲いいじゃねぇか」
 今度は何処か悪戯な少年を思わせる笑みを浮かべながら言った。すると、今井の顔がパッと明るくなる。
「お! そう見えるか?」
「ああ。あんた達、随分雰囲気変わったな」
 笹山真はそう言って、とても穏やかな目付きでボク等を交互に見やった。
「そうか? てか俺の事知ってたのか?」
「一組の今井康介だろ。知ってるさ」
「マジ?! 俺ってもしかして有名――、」
「単に金髪が目立つんだろ」
 喜々とした表情を見せる今井の言葉を途中遮って否定してやれば、今井はガクッと肩を落とした。
「こいつの事は前から~……知ってるわな」
 今井はそう言って右隣に居たボクを指差したが、言いながら手を下げた。
 笹山真は意味深な視線をボクに向けると、ニヤッと悪戯な笑みを口元に浮かべながら言った。
「日生ヒカリを知らない奴はそう居ないだろ」
「? どういう意味さ」顔を顰めながら問う。
 笹山真は僅かに目を見開いてまたもきょとんとしたが、それからすぐ目を閉じながらフッと笑う。
「自覚が無いってワケか」
「……みたいだな」
 今井は呆れた顔をこちらに向けて、笹山真の言葉に頷いていた。
「あんたは良くも悪くも目立つからな」
 笹山真はそう言ったが、やっぱりボクにはよく解らなかった。
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