I love you に代わる言葉
「――そういや日生、」
 三人で教室へ向かっていると、少し前を歩く笹山真が、心持ち振り返り不意にボクの名を呼んだ。
「答えたくなけりゃ答えなくてもいいが、一つ野暮な質問させてくれ」
「なに」
「さっき、今井に世話になってるって言ったな。どういう意味だ?」
 思いがけぬ質問だった。今井がチラとボクを横目に見たのが視界に入る。
「ああ……ちょっと色々あってね。少しの間今井の家に寝泊りさせて貰ってるだけさ」
 ややあってから、笹山真は「……そうか。」と呟いた。それだけだった。
 ボクは目を細めて、その後ろ姿を見た。何とも粋な姿。
 ……不思議な男だ。アンタには関係無い、そう拒絶するだけだったボクが、当然の如く応対している。先程こいつが言ったように、ボクは以前と比べ何処か変わったのだろうか。それともこいつには何かあるのか。こいつは、人を不快にさせず、狡猾さを必要とせず、するりと相手の懐に忍び込める。するりと、相手から感情を引き抜ける。そう、不思議な男。
 ここまで思考してハッとする。
 そういえば、おねーさんの事も初めは不思議な女だと思っていた。やっぱり姉弟なんだな。
 ボクはおねーさんとは別の意味で、笹山真に興味を抱いた。



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