I love you に代わる言葉
「……アンタはさ、」
 ややあってから落ち着いた口調で声を掛ければ、今井は驚いていた。多分ボクがまだ怒っていると思ったんだろう。別にさっき本気で怒った訳じゃなかったんだけど。
「おねーさんに、彼氏いると思う?」
 問い掛ければ、今井は僅かに驚いて見せると、あぁ、と思い出したように呟いた。
「まぁ~……日生には悪いけど、最初は正直、いないわけないだろって思ったな。けど……、家で過ごすとこ見ると、いないように見えるな。仕事から帰ってきて、その後どっか出掛ける様子はねぇし。まぁ、部屋に入っちまったら何してんのか俺らには分かんねーし、何とも言えねぇけど。部屋で彼氏とメールや電話してる可能性だってあるしな。休日はどう過ごしてんのかまだ分かんねぇし。けどやっぱ、いそうにねぇ。勘だけどな」
 それを聞いて、こいつ意外と観察したり考えたりしてるんだなと思った。
「じゃあさ、シンの言葉どう思った?」
「どうってそりゃあ……意味分かんねぇよ」
 まぁ、当然の気持ちだろう。何処か他人事のように思う。
「だってよ……普通、いるかいないか教えられないって事あんのか? 色々おかしい点多くねぇか? お前に協力するって事は、いないから協力出来るって事だろ。普通に考えたらそうだ。けど、なら何で「いない」って言えないのか俺には分かんねーな」
「最低な男と付き合ってるのかもね」
「なら隠す必要ないだろ。その男と別れさせたいから何とかしてくれって言やぁいいじゃねーか。つーか男いんのかよ?」
「さあね」
 それから今井は何も言わず、ただ手を動かして準備を進めていた。納得いかなくて渋い顔をしながら。
 シンの様子は、どちらとも言えない、という風に見えた。おねーさん自身しか答えを持ち得ない、というような。……いや、これでは酷く曖昧でどう考えても可笑しいけど。
 よそう、考えるのは。シンの言うように、こればっかりはおねーさんに直接聞くしかないみたいだ。



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