I love you に代わる言葉
 振り上げた右手を下ろし、唇をギリッと噛む。数秒立ったままでいたけど、大きく深呼吸してゆっくりとベッドに腰を下ろした。
 目を伏せ手の平に収められたアメシストをぼんやり見つめる。
 おねーさんが喜ぶ姿を見て「借りを返した」と確かにボクは思った。喜ぶとは“嬉しい”という感情の表れだ。何故それが借りを返すという事に繋がる? ……それはつまり。
「ボクは……認めない……」
 女なんかに手当てされた屈辱。それと共に心の何処かで――“嬉しい”と感じた事など。絶対に認めない。
 全てはこいつの所為だ。こいつに傷さえ付けられなければ、ボクの感情は乱される事は無かったのに。世界に絶望してただ憎んでいれば良かったのに。
 脳裏に焼き付いた笑顔。ボクがこいつを部屋に飾っていると知れば、それこそずっとニコニコしていそうだ。
 使い道の無いこんな石。有っても無くてもどうでもいいもの。ボクと同じそれを。
 徐に立ち上がったボクは、ベッド横に置かれた古い木棚の上、ずっと手に収めていたこいつを置いた。
 余計な事をしてくれたこいつにいつか復讐する為、その時が来るまで此処に置いてやる事に決めた。



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