I love you に代わる言葉
 それから数分間、静寂がボク等を包む。静かだ。ボクが住んでいた家も、静かだった。でもあそこは、夏でも冷え切っていた。それに比べこっちは何て、何て心地よい静けさだろう。温かい静寂。ボクはまだ思い切り目を開けていた。シンも多分、目を閉じてはいるが起きているだろう。
「……アンタさ、」
 シンに向けて、ポツリと言葉を紡ぐ。目が、ゆっくりと開かれたような気がした。
「何でボクに直接聞けって言ったのさ。本当は何もかも知ってるんだろ? 弟だしね。知らないワケがない」
「……」
 黙するシンが、喋った気がした。こいつは起きている。何故か確信が持てた。
「本当に今は彼氏とか居ないんだろうけどさ、あれは多分……忘れられない男がいるんだろうね。……写真が伏せてあった。何が写っているかは解らなかった。あとさ、オルゴールだっけ? あれも関係してるように見えたよ」
 言葉にすると、妙な感覚に襲われた。不可解さからくる苛立ちか、踏み込めない焦燥か、勇敢さの欠如からなる落胆か、或いは、忘れられない男とやらに対する羨望か。……多分、全部が入り混じる。
 伏せてある写真立て。あれは多分、元々伏せられているものだ。ボクが来るから、という理由なら、敢えてそうしなくても隠せばいい。自分も見たくはない、けど、捨てる事も仕舞い込む事も出来なくて、ああしてある。要するにそれは、吹っ切る事の出来ない思い出がそこにあるって事じゃないだろうか。全部、ボクの憶測に過ぎないけれど。
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