I love you に代わる言葉
 今はまだ、家中が薄暗く、静寂に包まれている。キッチンへ向かうと見える、おねーさんの部屋の扉。その隙間からも明かりは洩れておらず、起きている気配さえ感じられなかった。
 水切り籠に逆さに置かれたガラスコップを手に取り、水道水を入れる。ありがたい事に浄水器付きだ。これで冷蔵庫を開けなくて済む。水を飲み終え軽くコップをすすぐと、元あった場所に戻した。
 さてどうする。何もする事が無い。みんなが起きるまで何をしようか。暇潰しになるものなんか持ってきていないし。勝手にテレビとか観てていいんだろうか。けど、リビングで(しかも一人で)勝手に寛いでテレビ観てたら、何やってんだこいつってなるよな、確実に。シンが起きてくれれば一番いいんだけど。
 ボクは部屋に戻り、シンを起こしてみる事にした。流石にこんな時間だから起きてくれるとは思えないけど。
「――ねぇ。」
 シンの傍にしゃがみ込み、ゆさゆさと揺すりながら小声で声を掛ける。でも、すぐには起きてくれなくて、今度は一回目より声の音量を上げてもう一度ねぇ、と声を掛けた。
「……ん?」
 シンは目を覚ました。声が掠れている。
「……何だ?」シンは頭を少しだけ上げた。
「目が覚めちゃってさ、暇なんだけど」
「今何時だ……?」
「五時半過ぎ」
 即答すれば、シンは苦笑を漏らしながら、マジか、と零した。起こされて流石のシンも少しは不機嫌になってしまうかと思ったが、全然違った。いや、これもこれでシンらしいのか。シンはうつ伏せになって肘をつくと、少しだけ上体を起こした。
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