I love you に代わる言葉
「ま、結局そういう事なんじゃねぇか? そうじゃねぇ口喧しさもあるけどな」
「例えば?」
「例えば、か。そうだな……いちいち細かく指摘してくる所とか。干す時困るから、服を裏返しに脱ぐな、とか、靴下丸まったままにするな、とか。他にも、食器片付ける位置がねーちゃんの中で決まってるらしくて、ずらすと怒るぜ? 他にも色々あるが……ああ、氷使い切ったんなら、次出しとけとか」
「へぇ。アンタもそういう事言われるんだ。今井もしょっちゅう言われてるよ。あいつは心底うんざりしてるみたいだ。文句ばっか言ってるよ」
 ボクはそう言って、未だ起きる気配のない今井を顎をしゃくって指す。シンは今井を眺めながら笑う。
「そうだろうな。俺は適当に返事して流すけどな」
「ふうん。アンタ怒る事ないの?」
「ねーちゃんにか?」
「いや、人に対して」
 ボクがそう言うと、シンはボクから視線を外し、真っ直ぐ前を見据える。
「そりゃ怒るさ。人間だからな。内心はらわたが煮えくり返る程の怒りを感じる事もある。けど、めんどくせーから言わねぇし表にも出さないだけだ。第一、それ程人に不快感を与える奴に何言っても意味はねぇ。時間の無駄だ。なら、俺が感じる不快感を、俺が人に与えないように努める方が、よっぽど利口ってもんさ」
 そんな風に語るシンの横顔は、とてもスッキリとしたものだった。けど、何処か遠くを見つめる目は、爽やかとは言いがたく、僅かに影が差しているようだった。何か特定の事柄を指しているみたいな発言だった。なら、見据える先は記憶だろうか。いや、考えても解らない。ただ一つ解る事は、
「大人だね、アンタ」
 それだった。
< 199 / 415 >

この作品をシェア

pagetop