I love you に代わる言葉
 シンはきょとんとした顔でボクを見る。意外だったんだろう。ボクが人を褒める事が。ましてや自分が褒められる事が。
「はは、んな事ねぇよ」
「大人さ」
 真顔で言えば、シンは少し照れ臭そうに苦笑を漏らしながら、「よせよ。何も出ないぜ?」そう言った。それに対しボクは、ははっと笑う。こんな風に穏やかな朝を過ごすのは初めてだ。おねーさんの温かさに触れ、シンの強さに触れる。声を荒げる事のない穏やかな口調もまた、心地良い空間に誘われるようだった。
 今井の家で暮らすようになってから、とても穏やかな日々を送る事が出来ている。何だかんだ言っても、今井も嫌いじゃない、信用するに足る人間だろう。今井の母親にだって良くして貰っているし、今ではボクも、無遠慮な態度だ。それでも温かく受け入れてくれている。
「もう少し眠るよ。何かまだ眠いからさ。今井よりは早く起きると思うから」
「そうか。分かった」
「ベッド使ってていいの?」
「ああ」
 ボクは布団に入り直すと、横を向いてシンに背を向けて寝転んだ。先程読んでいた漫画本を手に取ったのか、背後でパラパラっとページを捲る音が耳に届いた。
「そういえばアンタ、ボクの所為でおねーさんに起こされたんだろ? 眠くないの?」寝転んだまま、顔も上げずに問えば、シンもまた、此方を振り向く事なく(振り向いた気配を感じなかった)返事をする。
「ああ。眠かったが、日生が起きるまで、と思って漫画読んでたらすっかり目が覚めちまったんだ。ま、特に予定もねぇし、眠くなったら適当に寝るさ」
「そ」
 短い返事を送り、ボクは目を閉じた。夜に目を閉じた時の感情など疾うに忘れたボクの身体は今、何か温かいものに包まれていて、今この時間は、心地良い眠りにつけそうな気がした。


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