I love you に代わる言葉


 ふわっと黄昏色の風が吹いて。おねーさんの長い髪と、白のロングスカートが、踊るように揺れた。その風の行方は何処だ。おねーさんの声を掬い上げながら、一体何処へ、向かったんだ。
 その言葉は、そのたった一言は。多分、ただ訳しただけではないんだろう。多分、此処にはいない誰かに届けたいと願って放たれたものだ。勘、だけど。
 ねぇ。その言葉は、そのたった一言は。
 誰に向かって言ったの?
 何処に向かって言ったの?
 いつに向かって、言ったの?
 ねぇ。その言葉は、そのたった一言は。

『私 は 生 き る』

 誰ヲ想ッテ、言ッタノ?
 おねーさんの横顔と真っ直ぐ伸びた背筋は、何処までも気高く見えた。泡沫の如く消え入りそうなのに、それでも消えまいと強く主張するかのようだった。



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