I love you に代わる言葉
 ボクは、今井の家に来た日と同じく、通学鞄とスポーツバッグに荷物を纏めた。ボクの様子を何か言いたげにチラチラ見る今井に気付いてはいたけど、ボクは何も言わなかった。
 一通り纏め終えると、ボクは石の入った小さな白い箱を手に取り、じっと眺めた。これは巡り合わせだろうか、と、考えずには居られない。ボクの感情を乱す元凶だと思っていたのに、今では素直に礼まで浮かんできそうだ。
 そんな事を考えながら箱を服の間に仕舞い込む。そしてふと、遠慮の無い視線が突き刺さるのを感じた。顔を上げれば今井と目が合い、ボクは思い切り顔を顰めた。そして数秒後、溜息を一つついた。
 今井は今にも泣きそうな顔をしていた。眉が寄って険しい表情なのは、泣くのを我慢しているからだろうか。
「アンタ、……」
 ボクは言葉を発する。が、まだ言い終わらない内に今井は鼻をずずっと啜り、言った。
「ちっげーよ! 何でもねぇよこれは……お前何勘違いしてんだよ、ちげーんだよこれは!」
「は?……」
 何が違うんだ。ボクまだ何も言ってないんだけど。別に勘違いもしてないし、こいつの心情も状況も掴めないくらいなんだけど。
 ポカンとしながらただじっと今井を眺めていれば、「な、何見てんだよっ……!」と言ってそっぽを向いた。何なんだこいつ。
「何で怒り口調なのさ。不愉快な程視線送ってきたのはアンタだろ。言いたい事あるなら言いなよ」
「……うっせ」
 ホント何なんだよ。
「――ま、いいさ。そろそろ出るから。アンタには色々世話になったね」
 立ち上がり、荷物を肩に掛けて部屋を出ようとすれば、何故か今井は慌てて立ち上がる。玄関まで、ボクの後ろを今井がついてきた。
 今井の母親には朝、一応簡単に挨拶しておいた。うまく言えないし、本当に簡単にだったけど。それでも今井の母親は、言葉少ないボクの背景まで読み取ってくれた。いい、母親だったと思う。急な決断を申し訳ないとか、母親代わりになってくれた事に感謝だとか、それから……少し、寂しいとか、ね。こんな風に色々な感情が巡るくらいには、居心地がいいと思っていたんだ。
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