I love you に代わる言葉
 視線を地面に向けていた所為で全く気付かなかった。恐らく前方からこちらに向かって歩いていたんだろう。
「今日は平日なのに変な時間帯に居るんですね。サボりですか? サボりですね?」
 驚きのあまり無言で見つめていたボクに、おねーさんは悪戯っぽく笑って言った。
「色々面倒だったからね」
 おねーさんから視線を逸らしムスッとした顔付きで言った。
「そうですか。ところで今は何を?」
「別に。おねーさんこそこんな所で何やってんのさ。サボり? ああ、サボりだね?」
 絶対にそんな事する訳ないと解っていたけど、弄られた感じと子供扱いされた感じが何だか悔しくて仕返しのつもりで言ってやった。
 だけどやっぱり、おねーさんは怒るでもなくクスクスと笑う。今日は何となく雰囲気が違うな。
「ふふ。私は本部に提出しなければならないものがあって。それを届けた帰りです。今からお店に戻りますよ」
「ふーん」
「これから何処かに行く予定ですか?」
「別に」
「暇を持て余しているのなら、お店へ来ます? 今日は私一人ではなく、店長も一緒ですが」
 思い掛けない誘いにピクリと反応する自分が居る。だけど、
「ボクが行ってどうなるのさ。万引常習犯が来た所で、他の従業員が不快になるだけさ」
 可愛いげの欠片もない言葉が口をつく。そんな様子にさえおねーさんは怒りを見せない。微笑みを絶やさず優しい眼差しを向けてくる。生意気だとは思わないのか。
「此処の従業員はそんな風に思わないですよ。……万引きは確かに悲しい事です。腹も立ちます。お金を払えば済む問題でもありません。商品を返品すればいい訳でもありません。悪い事だったと反省して繰り返さなければ嬉しい。それだけです」
 ボクは黙っておねーさんを見ていた。おねーさんは続ける。
「先日の出来事は店長も知っています。お話しましたから。みんなあなたが本当に悪い子じゃないと知っていますよ」
 何なんだ、この人は。何処までもボクの感情を掻き乱す。
「一先ずお店へ行きましょう。此処で立ち話していたら本当にサボってしまう事になります」
 苦笑しながらそう言って、おねーさんは歩き出す。此処でボクが付いて行かず背を向けて歩き出しても、おねーさんは何も言わないだろう。ボクは付いて行く事に一瞬躊躇したが、結局僅かな間を空けて後ろを歩いた。
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