I love you に代わる言葉
 二人で家まで歩く。バス停からシンの家まで十五分掛かるから、荷物が一つ減るだけでもやはり助かる。
 道中、先刻の今井の様子をシンに話せば、シンは笑っていた。今井は日生の事が大好きだからな、なんて鳥肌の立つ事を平気で言ってのけた。
「――そういや、今日俺、十五時からバイトなんだ。あと二時間もすりゃ出る」
 シンはケータイで時間を確認しながらそう言った。
「帰るのは二十二時半くらいになるな。ねーちゃんが十七時半過ぎには帰宅すると思う。夕飯は食べてていいぜ。別に待ってなくていい」
「……おねーさんと二人で?」
「そうなるな」
「……イヤなんだけど」
「おいおい、此処で暮らすって事はそういう事だぜ?」
 悪戯な笑みを浮かべて言うシン。解っていた事だが、やはり二人きりは嫌だ。
「アンタのバイトってさ、いつもそんな時間に終わるの?」
「ああ。出勤時間の方が学校の行事で変わるけどな」
「ふうん。休みはカレンダー通りなんだっけ?」
「ああ」
 ……なら平日の夜はいつもおねーさんと一緒なのか……。ボクも早く何かバイトを探さなければ。
「ハハ、何だ? 複雑そうな顔だな。そんなにイヤならずっと部屋に篭ってればいいだろ」
「そういう訳にもいかないだろ。……感じ悪いしさ」
 ボクがそう言えば、隣からくくっと笑いを押し殺すような声が聞こえてきた。またこいつは何笑ってるんだよ。そう思い不機嫌な顔付きでシンを見た。
「日生様もそういう事気にするようになったんだな。んなの今更じゃねぇか」
 眉がピクリと動く。こいつ……ムカつく。今井とは違った腹立たしさがある。仏頂面をし無言のまま歩を進めていれば、隣からまたもフッと笑みを漏らす声が届いた。視線は上げず目だけを動かして隣を観察する。シンはとても穏やかな口調で言った。
「ま、気にする事ねぇよ。ねーちゃんだってそれくらいの配慮は出来るさ」



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