I love you に代わる言葉
 え? とボクを振り返るおねーさん。澄んだ双眸が僅かに見開かれていて、真ん丸になっていた。じっと見つめられて耐え切れなくて逸らす。ボクはぽつりぽつり、言葉を紡いだ。
「……おねーさんの部屋にあった、オルゴールをさ、誤って落として、……割ったんだ……」
 ボクはおねーさんの顔を見る事が出来なかった。でも、驚きとショックが全身から溢れ、空気で伝わる。どんな顔されても仕方無い事だけど、どんな顔も、見たくなかった。怒られても、責められても、泣かれても、全部、仕方無い事だって解っているけど、泣かれるのが、一番嫌だ。
 おねーさんは今何を考えてるんだ? そもそも何故勝手に部屋に入ったんだって思っているだろうか。シンから与えられた理由を言うべきか否か。――言うべきではない。此処で言うのはどうだ。言い訳がましいし必死な感じがする。いっそ責め立てて問い詰めて欲しい。
 けど、願いに反して、おねーさんは黙っていた。静かにそこに佇んでいるだけだ。
「それで、怪我したんですね……?」
 空気が微かに揺れた後、おねーさんはとても静かに問い掛けてきた。その問いは、酷く優しいものだった。ボクは無言でいたけど、彷徨わせた視線は、問いを肯定したも同然だった。
「薬を取ってきます」
 静かな声でそう言った後、おねーさんは自室へ向かった。その背中をぼんやり見つめていたけど、おねーさんの感情は読み取れなかった。だって、何処までも落ち着いていたから。
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