I love you に代わる言葉
***

「――そうか。まぁ良かったじゃねぇか」
 バイトを終え帰宅したシンに、ボクは夕刻の出来事を話した。すると、何ともシンらしい、簡単な返事が返る。良かったと言えるのか微妙な所だが、まぁ、良かった方かも知れない。
 因みにシンが帰宅する前の話だが、あれからもおねーさんは、何事も無かったみたいに話し掛けてくれた。罪の意識に捉われ、バツの悪い表情を向けていたボクに、おねーさんは優しく笑ってくれた。
 夕食時、出来上がった食事は、気まずい想いをするボクを気遣って、部屋まで運んでくれた。それくらいの配慮は出来る、と言ったシンの言葉は正しかった。
 部屋で一人、ボクは黙々と食した。一人だったけど、独りじゃなかった。自分の為に作られた食事にありつけている幸福。部屋にたった一人でも、心は随分と満たされていた。
 ボクは何とかして、おねーさんに侘びをしなければならない、とひたすらに考えていた。これで良かったとおねーさんは言っていたけど、大事なものだった事は違いないんだ。付き合っていた男に貰ったものなら尚更。自分で購入したものよりずっと、その価値は計り知れない。自分も、おねーさんに貰った石があるから解る。
 そんな事に思考を巡らせている時、シンは帰宅した。部屋の扉を開けてボクの姿を確認すると、開口一番、
「大丈夫だったか?」
 そう言った。
 正直何が大丈夫で何がそうでないのか、ボクにはよく解らなかった。労働を終えたシンより疲弊していたし、色んな事があり過ぎたように思う。尋ねられてもボクは咄嗟に何も言えず、溜息を一つついた。それを見てシンは苦笑し、随分疲れた顔してるな、そう言いながらベッドに腰を下ろした。
 それからゆっくりと、夕刻の出来事を話したという訳だ。
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