I love you に代わる言葉
「……あれ、男に貰ったものだったんだね」
 目を伏せ無意味に床を眺めながら、無感情にボクは呟いた。それに対し、シンは無言で応えた。
 未練は無いと言っていたが、それなら何故、あそこにずっと置いていて、メロディを聴いていたんだろうか。問い掛けていた事とは何なのだろうか。落ち着きを取り戻した頭は、無駄に活性化して、次々と疑問を生み出してくるから不思議だった。
「……他には何か聞いたか?」
 何気無い、問い掛けだったと思う。いや、聡いシンの事だ。今思うと、悩み抜いた末の問い掛けだったのかも知れない。ボクが否定したその瞬間に、他にもまだ何かある事を自ら暴露しているようなものだからな。案の定ボクは、その背景を一瞬で理解した。
 ボクはシンに冷たい眼差しを向けた。数秒睨みつけ、また逸らす。
「何だ? 急に不機嫌になったな。どうしたんだ?」
 この時のシンは、全く以って白々しかった。何もかも見抜いているくせに。ボクはもう一度シンに冷たい視線を送ると、シンの双眸が鋭く光った気がした。
「男から貰ったって事しか聞いてないさ。他にはって何? まだ他に何かあるワケ?」
 苛立ちを露にやや口調を速めて言えば、シンは意味深に目を伏せ、
「いや? 別に」
 と、わざとらしく首を傾げてみせた。その動作に更に苛立ち、ボクは思い切り眉を寄せた。
「別にって事はないだろ。今の言い方、他にも何かあるって意味じゃないのか。何でそう隠すんだよ、いい加減イライラしてくるんだけど」
「……」
「大体さ、言えない理由なんてあるワケ? 別にアンタが話した所で誰に知れるワケでもないしさ、大事な事なら尚更早く言っておいた方がいいだろ。おねーさんから聞いた事が全てじゃないなら、今アンタが話してくれればいい」
「――言ったろ。時期が来たら話すって」
「ああ、認めたね。他にもまだ何かあるって」
「……ああ。あるな」
「アンタの言う時期っていつさ?――もったいぶってないで今言えばいいだろ!」
「話すのは俺じゃねぇ。時期が来ればねーちゃんから聞かされるさ。だから時期を待て」
「アンタが先に言ったら何か問題あるのか!?」
 ガンッと拳固でテーブルを叩き付けた。――この時どうしてこんなにイラつくんだ、って思ったけど、これも今になって思う事がある。多分、疲れていたのと罪の意識から解放されないからだったんだろう。おねーさんが優しいから、余計に。
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