I love you に代わる言葉
 こいつにこんな風に感情をぶつけたのは初めてだ。慣れた所為もあるかも知れない。
 シンはいつもの落ち着いた口調で言った。
「落ち着けよ、日生。日生が苛立つ気持ちも解る。言う事も尤もだ。けどな、本人が言うからこそ意味がある事もあるんだ。今日ねーちゃんが言わなかったのは、日生への配慮だ。今言うべきじゃないと判断したからだ。ねーちゃんの事が本気で好きなら、今は詮索してやるな――」
「――……」
 ボクはぐっと言葉に詰まり、ちっと舌打ちをした。くそっ……そんな風に言われちゃ、どう反論出来るんだ。“本気で好きなら”なんて言葉を使うのは、一番狡猾で一番誠実だ。悔しさに顔が歪む。
 こんな想いさせるくらいなら、徹底的に隠しておけば良かっただろ……!
「日生」
 呼ばれ、ボクは睨み付けるようにシンを見た。けど、シンの表情を見て鋭い目付きはほんの少し和らいだ。シンがとても穏やかな目をしていたからだ。
「今日生が黙ったのは、本気である証拠だ。あんたになら任せられる。ねーちゃんもいつか話すだろうさ」
 それ程遠くない未来にな。
 シンはそう言った。その言葉で、ボクの心は幾らか落ち着きを取り戻した。
 その様子を見て、シンはフッと笑みを零すと、「飯食ってくる」と一言言い残し、部屋を出ていった。


***
< 241 / 415 >

この作品をシェア

pagetop