I love you に代わる言葉
 そんな事を考えていると、突然、部屋の扉がノックされた。一瞬ドキッとする。ボクは返事をしなかったが、心持ち扉に顔を向ける。多分、おねーさんだ。どうしようかと視線を彷徨わせていると、入るぜ、という断りの後に、シンが入ってきた。……自分の部屋をノックするって可笑しな光景だな、と頭の隅で考えながらシンを無言で迎え入れる。
「今から今井が家に来たいって言うんだが――」
 シンは帰宅後、初めて声を掛けてきた。その内容が今井とは笑わせる。
「ここはアンタの家だろ。何でボクに確認取るのさ」
 ボクはシンに向かってそう言うと、すぐに視線を外し、再び窓外へと向けた。
「今は日生もここの住人だろ。他人扱いはしないさ」
 シンの言葉を聞いて、シンに見えないように、口唇を噛み締めた。心に染み入る、言葉だったから。
「……べつに、好きにすれば」
 ぶっきらぼうに答えると、背後でシンが微かに笑う声が聞こえた。
「ならOKの返事しとくぜ。日生のケータイにも今井から連絡来てねぇか? 今井の事だからな、俺より先に日生に連絡入れる筈だ」
「ああ、それなら昨日から鬱陶しいくらい来てるよ。返してないけどね」
「ハハ、そりゃ難儀だな」
 カラカラと笑うシンに向かって、ボクはふんっと鼻を鳴らした。ボクは傍に置いてあるケータイを手に取り、メール受信ボックスを開く。そこには、返信マークの付いていない今井からのメールが並ぶ。今井の家を出て此処へ来てから、六件も届いているんだ、鬱陶しい。
<シンの家はどうだ?>
<楽しいか?>
<お姉さんとは仲よくなったか?>
<進展したか?>
<おい、返事くらいしろよ!>
<おーい>
 はぁ……溜息をつきたくなる。返信していないのにこれだ。返信していないのに、だ。正気の沙汰じゃない。此処までくると何の有難味もない。単にウザイだけだ。おーい、の後には何も送られてこなかったから、流石にここらで諦めたんだろう。ボクはケータイをパカッと閉じた。
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