I love you に代わる言葉
 再び、部屋に一人になる。雨はまだ、降っている。雨音が、聞こえてくる。
 ああ、あんな事さえ、無ければ。
 ああ、あんな場所を、通らなければ。
 ああ、あんな親さえ、居なければ。
 今、いつも通りの平和な日常を送っていたに違いない。今井にだって、返信してないのにあんなに送ってくるなよ、とか、アンタ煩いんだよ、とか、いつものように悪態をついていたに違いない。
 ああ、今は、負の感情ばかりが渦巻く。あんな場所へ赴いた事が、心底忌々しい。一体何を、憎めばいいんだ。
 ボクはそっと目を閉じた。……よそう、考えるのは。あんな事は無かった事にしてしまえ。あんな卑賤な人間、初めから居なかったと思えばいい。
 そんな風に考えた直後に、ズキッ、と――……身体の何処かに痛みが走った。ハッとして目を開くけど、痛みはもう無くて、何処から走ったものかも解らなくて、結局それすらも、無かったものにした。



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