I love you に代わる言葉


 外は酷い雨だった。ボクが飛び出した直後は、まさにバケツをひっくり返したみたいな土砂降りで。
 家を出てから無我夢中に走り、家が見えなくなった所で、速度を緩め、のろのろと歩いていた。雨に打たれて、水分を含んだ服が重くて、おまけに肌に張り付いて不快だった。でも、戻るに戻れない。冷やされた所為か、頭は意外とスッキリしていて、とても冷静だった。
 ボクは公園を見付けた。ブランコと鉄棒とベンチがあるだけの、小さな公園だった。のろのろとベンチに近付き、それを眺める。ベンチも激しく濡れていたけど、既にこんな形(なり)だ。拘泥している余裕も無くて、一瞬の逡巡の後、すぐに腰を下ろした。
 雨足は弱まったけど、止む気配は一向に訪れなくて。ボクはずっと雨に打たれていた。また随分と演出好きな空だな、と考えて、ボクは嘲笑した。
 ああ、ボクは。
 一体何を、憎めばいい――……?
 暫く一人でこの場所に居て、孤独を感じ始めた頃、少し離れた場所で、草を踏みしめる音が微かに聞こえてきた。誰かが、居る。人の気配がする。それを敏感に察知したけど、ボクはずっと顔を俯けて、その人物を確認しようとは思わなかった。足音がボクに近付いてきて、音は、やがてボクの目の前で止まった。
 視界に映る、この人は。


「……日生くん……」


 おねーさんだ……。
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