I love you に代わる言葉
 安堵、戸惑い、困惑、色んな感情を含んだ、けど、とても温かい声が、頭上に降ってきた。それと同時に、雨が遮られる。ボクはゆっくりと顔を上げた。おねーさんは、雨からボクを守るように、傘を差していた。おねーさんの姿を揺れる双眸に映した後、ボクは何も言わず再び顔を俯けた。
「日生くん。これ、真から」
 おねーさんはそう言って、ボクの前にバスタオルを差し出した。シン、から……? あぁ、あいつは……。
「日生くんを追い掛けて外へ出る時に、持っていってやれ、って真から渡されて。……風邪、ひいちゃいます」
 そう言って、ボクの手にそっとタオルを置いてくれた。ふわり、優しい香りがした。
「……隣、いいですか?」
「!」
 ボクは顔こそ上げなかったものの、驚きに僅か目を見開いた。おねーさんはボクの返事を待っているのか、すぐには座ろうとしなくて。やや間を置いた後、おねーさんは動き出した。
「! ……濡れるよ」
 ボクがそう声を掛けると、構いませんよ、ととても堂々とした風で言った。何言ってるんだ、おねーさんは濡れていないのに、濡れているベンチに座ったら……。
「ちょっと待って……このタオル敷きなよ」
 ボクは渡されたバスタオルをおねーさんに差し出した。けど、おねーさんは首を横に振る。
「大丈夫。それは日生くんが使ってください」
 そう言って、タオルを受け取ろうとはしなかった。そのまま隣に座ろうとするおねーさんをボクは制止し、受け取らないなら、と手にしたタオルで乱暴にベンチを拭いた。ボクの行動にやや驚いた様子のおねーさん。けど、直後に、
「ありがとう」
 と小さく礼を言って、ボクが拭いた場所へゆっくり座した。
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