I love you に代わる言葉
 正直、父親はボクの中でどうだって良かった。シンにも言ったように、ボクは顔すら覚えてないし、最初から存在しなかったものだと思っている。死んでいても生きていても無問題な人間。
 けど、母親は。
 あの女とは、それでも過ごした時間が長かった。何処かで会えば一目で解るくらい、二度と忘れないくらいには過ごしていて。故に、ボクをこうも苦しめる。暴力は振るわれなかった、とか、一応食事は与えられていた、とか。僅かでもそこに愛情があったんじゃないかって、心の奥底で考えた事もあったんだ。
 けど、違った。
 世界は何処までも、残酷だった。
「日生くん」
 アルト調の優しい声に、ふと導かれた。ボクは身動き一つせず、耳を傾ける。
「――産まれ立ての赤ちゃんは、十分な食事を与えられても、愛情を与えられないと、死んでしまうのだそうです」
 ぴくり、眉が動いたのが自分でも解った。何の話だ……?
 ボクはおねーさんの話しに興味をそそられ、おねーさんの声を拾う事に全神経を集中させた。
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