I love you に代わる言葉
「だから……きっと日生くんのお母さんも、一時は愛情を注いだのではないかと思うんです。一度はきっと……ううん、一度だけではないかも知れません。幾度かきっと、その手に抱いたり、笑い掛けたり、頬を撫でたりすり寄せたり、手を握ったり……したと思います。だから今、日生くんが生きている。日生くんにその記憶が残っていなくても、多分、日生くんの一部がそれを記憶しているんだと思います」
 記憶している部分が、身体か、心か、解りませんが。
 おねーさんはそう続けた。ボクはおねーさんの横顔を盗み見た。おねーさんは目を伏せると、
「……故に、日生くんの苦悩は計り知れません。あの人は……日生くんのお母さんは、罪深い人ですね……そしてとても、憐れな方です」
 とても寂しそうに、呟いた。
「何処でどんな風に今の人格になったのかは解りませんが……救われなかったのは多分……お母さんの方です」
 心苦しげに、おねーさんは歪みを含む口調で言った。それきりおねーさんは口を噤んだ。女への憐れみが、沈黙からひしひしと伝わってきた。ボクはおねーさんの言葉と過去を、ひたすら反芻した。
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