I love you に代わる言葉
そういえば、いつか見た夢――……。
みっともない程に言い争う男女と、傍でそれを見て泣いていた『ボク』。非情な言葉を浴びせる男。気が違ったかのように発狂する女。ボクはどちらも憎くて、死んでしまえと思うのと同時に、自分も死にたかった。ボクは泣いた事が無いのに、『ボク』は泣いていて。馬鹿みたいに、泣いていて。多分……それが真実(ほんとう)のボクだったんだ。ボクはきっと、感情に素直になって、泣きたかったんだろう。
救われなかった母親、もう、救いようのない母親を想う。
家に現れた時、ボクの淡い期待に応えて、謝罪したとしても、ボクの憎しみは恐らく終わらないだろう。生涯憎み続けて、生涯それに苛まれるんだろう。それなのに、淡い期待さえも、裏切った。それはもう、救いようのない人間に成り下がったという事だ。……それでも。
「……憎いし、許せないけど、さ……それでもいつか……許したいと思える程……更生してくれればいい、なんて馬鹿な事、……考える」
「――当たり前です」
ボクはおねーさんの優しくも力強い言葉に思わず顔を上げた。おねーさんを見ると、酷く優しい眼差しがボクを真っ直ぐ捉えていて、ボクはハッと息を呑んだ。
「当たり前です。誰が好き好んで人を憎みたいと思いますか。ましてや自分のお母さんを……」
おねーさんをじっと見つめる。言葉に、涙が零れそうだった。
「憎み続けるより、許したい。許したいと願う時間は、憎み続ける時間と表裏一体で、同等の苦しみを味わうけれど、もし、それが叶ったら……幸せです。世界にたった一人の、日生くんの、お母さんだもの」
紡がれてゆく美しい言葉たちに、ボクの感情は誤魔化しようのない程、泣き叫んでいた。その証拠に、また一筋、涙が頬を伝う。それをおねーさんに悟られぬよう、すぐさま顔を逸らし、俯く。ボクが今此処に一人だったなら、嗚咽すら漏らし、泣いていただろう。
いつか許せる日が来るのだろうか。あの、罪深き者を。
俯いてただ無言を貫くボクの隣で、やっぱりおねーさんは何も言わず、ずっと傘を差し続けてくれていた。
みっともない程に言い争う男女と、傍でそれを見て泣いていた『ボク』。非情な言葉を浴びせる男。気が違ったかのように発狂する女。ボクはどちらも憎くて、死んでしまえと思うのと同時に、自分も死にたかった。ボクは泣いた事が無いのに、『ボク』は泣いていて。馬鹿みたいに、泣いていて。多分……それが真実(ほんとう)のボクだったんだ。ボクはきっと、感情に素直になって、泣きたかったんだろう。
救われなかった母親、もう、救いようのない母親を想う。
家に現れた時、ボクの淡い期待に応えて、謝罪したとしても、ボクの憎しみは恐らく終わらないだろう。生涯憎み続けて、生涯それに苛まれるんだろう。それなのに、淡い期待さえも、裏切った。それはもう、救いようのない人間に成り下がったという事だ。……それでも。
「……憎いし、許せないけど、さ……それでもいつか……許したいと思える程……更生してくれればいい、なんて馬鹿な事、……考える」
「――当たり前です」
ボクはおねーさんの優しくも力強い言葉に思わず顔を上げた。おねーさんを見ると、酷く優しい眼差しがボクを真っ直ぐ捉えていて、ボクはハッと息を呑んだ。
「当たり前です。誰が好き好んで人を憎みたいと思いますか。ましてや自分のお母さんを……」
おねーさんをじっと見つめる。言葉に、涙が零れそうだった。
「憎み続けるより、許したい。許したいと願う時間は、憎み続ける時間と表裏一体で、同等の苦しみを味わうけれど、もし、それが叶ったら……幸せです。世界にたった一人の、日生くんの、お母さんだもの」
紡がれてゆく美しい言葉たちに、ボクの感情は誤魔化しようのない程、泣き叫んでいた。その証拠に、また一筋、涙が頬を伝う。それをおねーさんに悟られぬよう、すぐさま顔を逸らし、俯く。ボクが今此処に一人だったなら、嗚咽すら漏らし、泣いていただろう。
いつか許せる日が来るのだろうか。あの、罪深き者を。
俯いてただ無言を貫くボクの隣で、やっぱりおねーさんは何も言わず、ずっと傘を差し続けてくれていた。