I love you に代わる言葉
 シンの言葉に素直に頷けず険しい表情で立ち尽くしていれば、シンは笑った。
「気にすんなよ、日生。お互い様って事にしとこうぜ。それより、昨日はうまくいったのか?」
「……は!?」
 驚きの声を上げれば、シンの口元には、いつものように悪戯な笑みが浮かんだ。
「う、うまくって何さ……べつに何もなかったよ……何か期待して飛び出した訳じゃないしね……」
「解ってるさ。しかし、日生は相変わらず無欲恬淡というか、純真無垢というか、日生みたいな奴は昨今、なかなかいないぜ」
 ボクはムッとした。褒め言葉のつもりだろうが、そんな風に言われてもやっぱりボクは素直に喜べないんだ。子供と言われているみたいだし、無知蒙昧だという事をわざとらしく綺麗な言葉で婉曲に表現されているみたいで気に入らなかった。
「はっ、何言ってんのさ。そういう言葉はおねーさんみたいな人の事を指すんだ。他にも、清廉潔白、とかね」
 こうして言葉にしてみて何とも奇妙だった。矛盾すらしている。自分が言われれば複雑なのに、人に向ける時は褒め言葉になるんだから。それならやはりシンも、褒め言葉としてボクに言っているんだろう。
 ボクの言葉を聞くと、シンはやや驚きの表情を見せた後、何処か満足そうな笑みを浮かべた。
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