I love you に代わる言葉
「は? 何でアンタに決められなきゃいけないんだ」
「遅くなり過ぎなきゃいいんだろ、なら今日でいいじゃねーか」
 こいつ、ホントにああ言えばこう言うな……ボクが黙っていると、今井はパッと表情を明るくした。
「決まりだ決まり! 今日渡そうぜ! これからシンの家に向かえばいいじゃねーか。シンって今家いんのか? 何してんだ?」
「さあね。家に居るんじゃない? あいつ学校とバイト以外じゃ殆ど外出ないからね」
「へぇ、意外だな。……ああ! だからあいつ彼女が出来ねーのか!」
 まるで長年の謎が解明されたみたいな大袈裟な反応をしながら、今井は声を上げた。
「それ、伝えといてあげるよ」
 ボクはニヤッと口の端を吊り上げながら言う。
「わわっ……! やめろ怒られる……!」
「そんな事じゃ怒らないよあいつは。シンはこっちの人間じゃないからね、気の合う友達がまだいないんじゃない」
「まるで異世界から来たみたいな言い方だな……まぁ、異世界臭を感じない事もねーけど」
 異世界臭って何だよ……
「――ていうかそんな話はどうでもいいんだよ。ボクは早く帰りたいんだけど」
「えー行こうぜ」
「おねーさんは仕事の筈だ。だから行っても意味が無い」
「ならそのまま泊まろうぜ」
「は? 今日はアンタん家に行くんだろ。それに何勝手に決めてるんだよ。いきなり行ったら二人の予定が狂うんじゃないの? それに、おねーさんは四人分の食事を作らないといけなくなるんだ。無駄に迷惑は掛けたくない」
 一気に言い放つと、今井は意外だと言わんばかりに目を丸くした。
「お前ホント変わったな。人の事そうやって気遣うんだからよ」
「は?……別にそういう訳じゃないんだけど」
 思いがけぬ今井の言葉が自分を揶揄する発言に思えて、僅かな苛立ちと戸惑いが生まれる。仏頂面をするボクを見て、今井は二カッと笑った。
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