I love you に代わる言葉
 二人にとってボクは客の一人に過ぎないし、話をすると言っても此処は仕事場だからその大半は石の話だ。だけど居心地の悪い場所ではない、と。少しずつそう思い始めていた。
 しかし。
 表情が少しずつ険しくなる。
 ボクはあの場に、そぐわない気がしてくるんだ。ボクはあそこに居ちゃいけない。優しくされればされる程、親しくなればなる程。――近付けば近付く程、遠い場所だと気付かされる。
 二人が持っているもの、周囲にあるもの。ボクとは何かも、違っている。
 不意に、先刻店に居た親子を思い出す。子供がおねーさんに向ける相手を慕う表情、恋慕とはまた違うがそこにあるのは見紛う事無く好意だ(まぁ子供の年齢を考えれば恋慕だと恐ろしい)。
 あの親子の背中が語る幸せもそうだ。だけどそれは特別な事でも何でもなくて。――「普通」であるならばそれが当然。ボクがただ、例に漏れただけ。
 顔を少し上げ前方を見据えたけど、日差しが眩し過ぎて、目を細め結局伏せた。



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