I love you に代わる言葉
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 ……――


 何処からか声が聞こえる。
 だけどそれはぼそぼそと微かに聞こえるだけだ。人がそこにいて何かを話していると解る程度の距離。
 次第に近くなる声は、……怒号か。男の声だ。
 何を言っているのまでは解らないが、激昂しているのは間違いない。
 ……、……?
 ……今度は女の声もする。
 ますます声の距離は近くなった。
 女の声は、泣いている、という可愛らしいものじゃない。頭が可笑しい奴みたいに発狂しているようだ。
 ……。
 ……あれ?
『ボク』がいる。
 二人の様子を傍観している。だけど『ボク』は今よりずっと幼い。
『ボク』は背を向けていてどんな表情なのかが解らないけど、震えている様にも見えた。それは恐怖なのか怒りなのか悲しみなのか、或いは全部なのか、『彼』が語っているのは背中だけじゃ解らない。
 ……『彼』?
 ああ、そうか。ボクは『ボク』を見ているんだ。何故かは解らないけど、確かに『ボク』を見ていた。
 だけど突然『ボク』はフッと姿を消した。同時に、これまで馬鹿みたいに怒鳴っていた男が、振り返ってボクを指差す。
 ニッと唇の端を吊り上げて不適に笑ったかと思うと、とんでもない事を言い放った。



 ――俺はこんなやつ、いらない。
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