I love you に代わる言葉
「……そうか。なら、さっき俺が言った事の後者が正解かもな。赦しを請う、とはまたちと違うが、ねーちゃんの事だ。大方、『日生を好きになってもいいのか』って問い掛けてたんだろうぜ。謙也さんに向かって。……生真面目だからな、ねーちゃんは」
 本人から語られた訳じゃないからそれを真実と呼べやしないが、何故かそれが真実であるとボクは確信が持てた。花恋さんを知る者なら、何の根拠も必要とせずに「絶対それ」と言い切れる気がする。要は、それだけ誠実という事だ。
「オルゴールが割れたのも、偶然じゃねぇかもな。案外、謙也さんの仕業だったりしてな」
「へぇ。アンタもそういう事考えるんだ」
「世界は不思議で成り立ってるからな。科学で解明されてねぇ事も、生涯解明されねぇ事も世の中にはごまんとある。だから、元々そういう考えを否定はしてねぇよ。まず、否定出来るだけの根拠がねぇし」
「まあね……」
 こいつ一体何歳なんだよ……本当に同い年か疑わしいと最近思う。そんな事を考えながら目を細めてシンを見ていると、シンは何の前触れもなく突然くくっと笑い出した。ボクは眉を寄せる。
「……何笑ってるのさ、気持ち悪い」
「悪い、思い出し笑いしちまった。俺が一人暮らしだと思い込んでここに来た日生が、ねーちゃんに会った時の反応、今思うと面白かったなぁって。ねーちゃんの方も面白かったけどな」
 シンは口元に手を近付け笑いを噛み殺す仕草をするが、笑いは完全に漏れている。時折その双眸は現在(ここ)ではない少し離れた場所を向き、そんなシンをボクは思い切り呆れ顔で見る。本当にこいつには、色んな事をしてやられた。嬉しいとかありがたいとかも感じるけど、それ以上に何だか腹立たしい。
 それから暫くしてシンは笑いを止めると、また静かに話し出した。
「日生に「俺ん家に来いよ」って誘った時、日生は「どうして知り合って間もない奴にそこまで出来るのか」って聞いてきたな? 俺はその答えに、「あんたを気に入ったから」という台詞を選んだ。それに嘘はねぇが、その言葉、『ねーちゃんもお前を気に入ってる』って意味も含まれてたんだぜ?――今だから言える事だけどな」
 それを聞いて、ボクの心内は酷く驚愕していた。真実に辿り着くと、過去交わした何気無い言葉一つに、色んな意味が含まれていると知るのだから。
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