I love you に代わる言葉
 部屋に戻った花恋さんは、収納棚を開けて何やらごそごそと漁る。その様子を扉の傍に突っ立ったままぼーっと眺めていたボクは、何だか今目の前にいる女性(ヒト)が自分の彼女だなんて信じられなかった。生活も、会話も、付き合う前後で特に変わらないし、こうして用事があって部屋に訪れるのも珍しくも何ともない。ボク等のやり取りも自然と言えば自然だ。故に、不思議な気分だった。だけど、ボクは花恋さんの彼氏で、花恋さんはボクの彼女で。今はその響きだけで、幸福感に浸れた。
「四種類ありますけど、どれがいいですか? ……あ。どれがいい?」
 頑張ってタメ口で話そうとする所が、たまらなくカワイイし好きだった。
 花恋さんはテーブルに四種類の便箋と封筒を並べ、ボクはそれを覗き込むように見た。……ダメだ、どれもボクには使えそうにない。しかし決して変な柄という訳ではないんだ。……綺麗過ぎる。
 一つは、天からひらひらと羽根が舞い降りてくるシーンが描かれたみたいな柄で、一つは、薄紫色の桜が一面に描かれている。それをボクは夜桜みたいだと思った(勿論、紙は白いけど)。一つは、ピンク色の桜が描かれていて、こちらは満開時の桜がふわりと描かれた感じ。最後の一つは、淡い水色の綺麗な空と、そこから舞い降りる羽根が描かれていた。……達筆な人でないとこういう便箋使えないんだろうなと思わせる程洒落ていて高級感があった。……本当に綺麗なものに惹かれる性質なんだな。
「もう少し……地味なものでいいよ。無地でもいいくらい」
 折角出して並べてくれたのに申し訳ないけど、ボクは正直にそう言った。花恋さんも少しだけ申し訳なさそうに、そうですよね、と言って眉を下げたが、無地のものあったかな……と独り言を零しながらすぐに収納棚を探してくれた。
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