I love you に代わる言葉
 離れてまだ二ヶ月と少しだが、それでも酷く久しく、懐かしい気がした。心が痛む程に、ここは変わらな過ぎた。込み上げてくる想いの正体が掴めないのに、心を確かに揺さぶる何かを感じた。それを止(とど)める如く、唾を飲み込む。
 暫くアパートを見つめたまま突っ立っていれば、隣から、
「……ここは?」
 という、静かな問いを投げ掛けられた。
「……ボクが住んでた家。」
 アパートを見つめたまま、小さな声で答えた。花恋さんのハッとする様子が空気が揺れ動く事でボクに伝わる。花恋さんも、ボクと同じようにアパートを眺めていた。
「一緒に来て欲しい場所って、ここですか?」
 やや間を置いた後そう尋ねられ、そう、と短く答える。そしてボクは足を踏み出し、踏めばカンカンと音を鳴らし古めかしさを感じさせる階段を上がる。花恋さんもボクの後ろをついて来た。二階に上がり突き当たりまで行くと、ボクはポケットから鍵を取り出し(これが持ち物の一つだ)、目の前の扉の鍵穴に差し込んで、扉を開けた。ボクは花恋さんへ振り返る。そして扉の向こうを、ボクは見つめた。
「……この家に、置いておきたいものがあったんだ。……用事って、それだけ」
 ボクは花恋さんへ向き直った。そして言った。「ここで待っててもいいよ」
「……私は中に入らない方がいいですか?」
 花恋さんはそう問うてきた。ボクは少し困った。まあ……ここまで来て貰っておきながら玄関先で待っててというのはおかしいよな。けど、立派な家ならともかく、彼女をこんな薄汚くて暗い空間に通すのは少々躊躇われた。少し無言でいると、花恋さんは少し肩を落とした様子で、
「ダメでしたら……ここで待ってます」
 と言った。
「ダメっていうか、……ヒドイ、部屋だからさ」
「気にしませんよ」
 そう返されて、ボクはパッと顔を上げる。優しい笑顔がそこにはあった。
「ヒカリくんがいた家を、見てみたいです」
 更にそう言われ、ほんの少しの逡巡の後、結局通す事にした。
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