I love you に代わる言葉
ショッピングモールを目前にして、歩行速度がやや落ちた。
此処まで来て逡巡する心が僅かに生まれる。やっぱり帰ろうか。別に本屋じゃなくても行く所はある。
だけど結局ボクは。
考えを振り切る様に頭を軽く振った。
いや、ボクは本屋に行くだけだ。それ以上の理由は無い。
逡巡する心を捨て、ボクは堂々とした足取りで歩を進めた。
煌宝を避ける様にわざと遠回りをして、東口の出入り口から入館した。煌宝は西口付近に位置する。これなら万が一にも出くわす事は無いだろう。
真っ直ぐに二階の本屋を目指す。
本屋に入ると、時間帯の所為だろうか客は結構居た。漫画・雑誌コーナーには男子学生が多く、小説コーナーには地味な女学生が数人。会社員らしき人物も多く見られるが、やはり場所が場所なだけに、人数の割りに静まり返っている。
特別読みたいものがないから適当に一周するが、やはりどれもパッとはしない。不意に顔を上げて前方を見れば店員と目が合う。その目が鋭く光るのは、やっぱりあれか。監視か。
思わず苦笑が洩れそうになったが不審がられると面倒だから堪える。
本棚に視線を戻しそこで見付けた本にボクは釘付けになった。
鉱物図鑑。
これは以前おねーさんが手に持っていなかったか。というか、煌宝に置いてある本と一緒だ。
その本を手に取り、目次ページを見る。
何と読むのか解らない漢字が連なっている。石という簡単な漢字でさえ、『いし』と読むのか『せき』と読むのか判断に苦しむ。結局有名なダイアモンドしか解らなかった。
パラパラと捲って中身を見た。百四ページ目で手が止まる。
ページの上部に掲載された写真、そこに写っているのは空の青を吸い取った様な石だった。
<天青石(てんせいせき)>
写真の更に上の方に、それはそう書かれていた。ああ、これは綺麗だな、そう思った。
何と言うか、そう――……おねーさんに似合う石だ。
そう考えてハッとした。今、何を考えたんだボクは。
手にしていた本を乱暴に本棚に並べた。その音が店内に響いたみたいで、不快を露にした視線が突き刺さる。
それらを無視してその場から離れた。
これじゃあ本屋に来た意味がまるで無い。大体どうしてあんな本を手に取ったんだ。
思い切り顔を顰めた。
ボクは一体何がしたいんだ。行動が奇妙でしかない。
「おや。日生くん?」
本屋から出ようとした所で不意に名を呼ばれた。驚いてそちらを向くと、本屋の隣にある百円ショップの前に、右腕に袋をぶら提げた煌宝の店長であるオバサンが立っていた。
その姿を見て同時に二つの感情が一瞬で心を支配した。
……ああ、オバサンか。
ああ、オバサンか……。
安堵と落胆。そこまで理解していながら、後者の感情を持つ意味が理解出来なかった。
此処まで来て逡巡する心が僅かに生まれる。やっぱり帰ろうか。別に本屋じゃなくても行く所はある。
だけど結局ボクは。
考えを振り切る様に頭を軽く振った。
いや、ボクは本屋に行くだけだ。それ以上の理由は無い。
逡巡する心を捨て、ボクは堂々とした足取りで歩を進めた。
煌宝を避ける様にわざと遠回りをして、東口の出入り口から入館した。煌宝は西口付近に位置する。これなら万が一にも出くわす事は無いだろう。
真っ直ぐに二階の本屋を目指す。
本屋に入ると、時間帯の所為だろうか客は結構居た。漫画・雑誌コーナーには男子学生が多く、小説コーナーには地味な女学生が数人。会社員らしき人物も多く見られるが、やはり場所が場所なだけに、人数の割りに静まり返っている。
特別読みたいものがないから適当に一周するが、やはりどれもパッとはしない。不意に顔を上げて前方を見れば店員と目が合う。その目が鋭く光るのは、やっぱりあれか。監視か。
思わず苦笑が洩れそうになったが不審がられると面倒だから堪える。
本棚に視線を戻しそこで見付けた本にボクは釘付けになった。
鉱物図鑑。
これは以前おねーさんが手に持っていなかったか。というか、煌宝に置いてある本と一緒だ。
その本を手に取り、目次ページを見る。
何と読むのか解らない漢字が連なっている。石という簡単な漢字でさえ、『いし』と読むのか『せき』と読むのか判断に苦しむ。結局有名なダイアモンドしか解らなかった。
パラパラと捲って中身を見た。百四ページ目で手が止まる。
ページの上部に掲載された写真、そこに写っているのは空の青を吸い取った様な石だった。
<天青石(てんせいせき)>
写真の更に上の方に、それはそう書かれていた。ああ、これは綺麗だな、そう思った。
何と言うか、そう――……おねーさんに似合う石だ。
そう考えてハッとした。今、何を考えたんだボクは。
手にしていた本を乱暴に本棚に並べた。その音が店内に響いたみたいで、不快を露にした視線が突き刺さる。
それらを無視してその場から離れた。
これじゃあ本屋に来た意味がまるで無い。大体どうしてあんな本を手に取ったんだ。
思い切り顔を顰めた。
ボクは一体何がしたいんだ。行動が奇妙でしかない。
「おや。日生くん?」
本屋から出ようとした所で不意に名を呼ばれた。驚いてそちらを向くと、本屋の隣にある百円ショップの前に、右腕に袋をぶら提げた煌宝の店長であるオバサンが立っていた。
その姿を見て同時に二つの感情が一瞬で心を支配した。
……ああ、オバサンか。
ああ、オバサンか……。
安堵と落胆。そこまで理解していながら、後者の感情を持つ意味が理解出来なかった。