I love you に代わる言葉
「久し振りだねぇ。何してんだい?」
 そう言って笑顔を浮かべながらこちらに近付いてくる。
 思考を中断するオバサンの言葉に僅かに動揺したが平然を装った。
「別に」
 素っ気無く短い返事を返す。こんな態度でもオバサンは少しも物怖じする事無く笑っている。歳を取ると人は図太くなるのか。そんなどうでもいい事を考える。
「暇なら店に来ればいいじゃないか。話し相手になったげるよ」
「別にいらないよ。ていうかさ、そっちこそ何してんの? 店ほったらかしで」
 オバサンが今日出勤している事は、首に提げられたネームプレートを見れば解る。何か買出しなんだろうが店はどうした。
「ははは。店を空けたままで呑気に買い物なんか出来ないよ。今日は社長が本店からいらしてるからねぇ、社長に店を任せてあたしはこうして買い出しに来たんだよ」
「ふーん……」
「あたしは店に戻るけど、あんたはこれからどうするんだい?」
 歩み寄って隣に立ったオバサンはにこやかにそう尋ねてくるけど、すぐには返答出来なかった。何か言いたいけど言葉がすんなりと出てこない。何に躊躇っているのか自分でも解らないんだ。
「今日も店に来るかい?」
「……今日おねーさんいる?」
 ……、口にしてすぐに後悔した。今の一言に色んなニュアンスが含まれている。そしてボクがそう感じたのは、そこに色んなニュアンスを自分が含んだに他ならない。覚えた羞恥を極力隠しオバサンを見たが、特に気にする素振りは見られなかった。
「花恋ちゃん今日は休みなんだよ。何か用があったのかい?」
 思いもよらぬ言葉が返ってきた。本当にオバサンには何も伝わっていないみたいだ。ホッと胸を撫で下ろしまたも別にと素っ気無く返事した。
「そうかい。で、どうするんだい?」
「……別に、暇だから行ってもいいけどね」
「ははは、あんたは相変わらずだねぇ。じゃあ行こうか」
 そう言って歩き出すオバサンから距離をとって後ろをついて行く。なにこの光景。以前と同じ様な光景じゃないか。おねーさんだったのがオバサンに変わっただけ。おねーさんの時より距離をとって歩いているが、それはまぁ、うん。
 それよりも何でこう煌宝の店員に偶然会うんだ。仕事中であるにも関わらずこいつらがぶらぶらと館内をウロついているのがいけない。
 だけどそういう偶然があると知っていて、何故ボクは此処に来た?
 今でも渦巻く二つの感情が意味するものは何だ?
 答えを求めていながら、だけどそれが指し示す真実をボクは多分知りたくない。



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