I love you に代わる言葉


 暫く歩いて煌宝に到着した。
 店内には、木棚の引出しを出して(文字通り開けているのではなく出している)物色する少し小太りの男が居た。まさかこれが社長なのだろうか。判断し兼ねるがオバサンがいらっしゃいませと声を掛けないのだから客ではないんだろう。
 男の後姿をまじまじと観察する。まさに中年太りと言った体型。何食べたらああ肥えるのか知りたい。髪の毛がまだフサフサしている辺り、そこまで高齢ではないのかも知れない。社長というからスーツでビシッと決めた男を想像したけど、後姿だけではとても社長に見えない。というか、服装も地味だし一歩間違えれば怪しい奴に見える。
 瞬時にそれだけ思考する。
 オバサンが戻ってきた事を気配で悟ったのか男が振り返ってこちらを向いた。顔を見ると想像より若いのだと知れた。年齢は四十程度か。顔付きはキツくなく、穏やかそうではある。どうやらボクの想像で当たっていたのは性別だけみたいだ。
「社長、戻りましたよ」
「ああ、お帰りなさい。……その子は?」
 男はやっぱり社長だったみたいだ。声を掛けられオバサンに向けられた視線は、その数歩後ろに居たボクに投げ掛けられる。質問に対する答えが気になってオバサンを見れば、意味深な笑顔を浮かべるオバサンと視線が合う。
「常連さんですよ。買い出しの途中で見かけたもんですから声掛けたんですよ」
 紹介しながら一度視線を外したオバサンは、再びボクに笑顔を向けてきた。言葉と笑顔で瞬時に悟る。万引き犯である事を上の奴らに告げないつもりだ。それはボクの為か己の為か。どちらにせよ面倒な事にはならなそうだ。
「そうですか。君、石が好きなのかい?」
 木棚の引出しをそのままに、男は穏やかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「……、」
 思わず言葉に詰まる。
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