I love you に代わる言葉
*
真っ赤な夕陽に照らされた街。外の世界は赤だった。
夕方だというのに吹き抜ける風は熱を帯びている。今夜も暑くなるだろう。
家路を辿る為に踏み出した足は、結局一歩と踏み出しただけで動かなくなった。
前方、二十メートル程先に、先に出た筈のおねーさんが立ち止まっていたからだ。左腕につけられた腕時計を見ている。誰かを待っているんだろうか。誰を、待っているんだろう。
不意におねーさんが顔を上げてこちらを見た。一瞬ボクの視線を感じたのかと焦ったが、刹那の驚いた表情を見るに偶然だと思われる。おねーさんは笑って会釈した。
ボクもし返すべきなんだろうが、ご丁寧に会釈し返す自分など気持ち悪くて、結局顔を伏せ再び歩き出した。
何なんだ、この感情は。以前にも似た様な感覚が走った気がする。ゆっくりと吹き上げる蒸気の様な、ふわふわとした浮遊感を全身が感じている。
その時はその感情に『温かい』と、勝手に名前を付けた。だけど今回はそれと微妙に違うんだ。
振り払いたい。振り払ってしまいたい。
何処から沸いているんだ。心臓か。ギュッと掴んでこの鼓動を止めてしまいたい衝動に駆られる。
温かさを以前、確かに得て。そして今日、ボクは……。
認めない。認めたくない。認められない――……。
立ち止まって天を仰いだ。グッと拳を作って、口唇を噛み締める。
あんな場所、やっぱり行かなければ良かったんだ。そうすれば。
ボクは認めない。認めないけど、思いがけずおねーさんが現れた瞬間、高鳴った心臓はもう誤魔化せなかった。最初は突如現れた事に驚いただけだと結論付けた。
会いたくなかった。だけど、言い訳めいた言葉を並べて本当の気持ちを隠しているに過ぎなかったんだ。
会いたくなかった。それはこうなってしまうのが怖かったからだ。ボクがボクでなくなってしまう気がして気持ち悪かった。そう、これは本意じゃないんだ……!
全身の力をフッと抜いた。震える程握った拳は、今ではだらんと力なく下げられて。夕陽に染められた赤の世界はボクの全身の熱を表している様だ。
あんな場所行かなければ良かった。
そうすれば。
おねーさんに会えて『嬉しい』なんて、思わずに済んだのに。
真っ赤な夕陽に照らされた街。外の世界は赤だった。
夕方だというのに吹き抜ける風は熱を帯びている。今夜も暑くなるだろう。
家路を辿る為に踏み出した足は、結局一歩と踏み出しただけで動かなくなった。
前方、二十メートル程先に、先に出た筈のおねーさんが立ち止まっていたからだ。左腕につけられた腕時計を見ている。誰かを待っているんだろうか。誰を、待っているんだろう。
不意におねーさんが顔を上げてこちらを見た。一瞬ボクの視線を感じたのかと焦ったが、刹那の驚いた表情を見るに偶然だと思われる。おねーさんは笑って会釈した。
ボクもし返すべきなんだろうが、ご丁寧に会釈し返す自分など気持ち悪くて、結局顔を伏せ再び歩き出した。
何なんだ、この感情は。以前にも似た様な感覚が走った気がする。ゆっくりと吹き上げる蒸気の様な、ふわふわとした浮遊感を全身が感じている。
その時はその感情に『温かい』と、勝手に名前を付けた。だけど今回はそれと微妙に違うんだ。
振り払いたい。振り払ってしまいたい。
何処から沸いているんだ。心臓か。ギュッと掴んでこの鼓動を止めてしまいたい衝動に駆られる。
温かさを以前、確かに得て。そして今日、ボクは……。
認めない。認めたくない。認められない――……。
立ち止まって天を仰いだ。グッと拳を作って、口唇を噛み締める。
あんな場所、やっぱり行かなければ良かったんだ。そうすれば。
ボクは認めない。認めないけど、思いがけずおねーさんが現れた瞬間、高鳴った心臓はもう誤魔化せなかった。最初は突如現れた事に驚いただけだと結論付けた。
会いたくなかった。だけど、言い訳めいた言葉を並べて本当の気持ちを隠しているに過ぎなかったんだ。
会いたくなかった。それはこうなってしまうのが怖かったからだ。ボクがボクでなくなってしまう気がして気持ち悪かった。そう、これは本意じゃないんだ……!
全身の力をフッと抜いた。震える程握った拳は、今ではだらんと力なく下げられて。夕陽に染められた赤の世界はボクの全身の熱を表している様だ。
あんな場所行かなければ良かった。
そうすれば。
おねーさんに会えて『嬉しい』なんて、思わずに済んだのに。