I love you に代わる言葉

「あら。今井君もサボり？」
　突然開かれた扉の音に驚く様子も無く、センセーはそこに立っていた金髪の男――今井にそう声を掛けた。
「ああ。……ひ、日生も居たのか」
　今井はセンセーに返事をした後、こちらにおずおずと視線を寄越した。ボクは勿論、面倒だからそんな独り言のような台詞に返事はしない。
　今井はつかつかとこちらに歩み寄ると、ボクが座っていた長椅子ではなく、机から平行に置かれたもう一つの長椅子に座り込んだ。
　ちらりと盗み見る様にこちらを見てくるがバレバレで。何より不快だった。
「こないだからさぁ、アンタ何なのさ。ボクに何か言いたい事でもあるわけ？」
　問えば今井は僅かに視線を彷徨わせた後、ぼそっと小さく「別に……」と零した。だけど表情を見れば、何か言いたそうなのは明らかだ。
　目を細めて今井を見やる。
　こいつとは最近あまりつるまなくなった。ボクがおねーさんと初めて会った時からだ。まぁ元々ふざけ合って笑い合って騒ぎ合う様な仲でもなかったけど。単調な口調で適度な会話をする程度。尤も、ボクは相手が誰であってもそんな様子だったが。
　こいつが何か言いたげにこちらに視線を送る様になったのは、それからじゃない。ここ最近だ。しょっちゅう目が合う訳ではないが、一日に三回は確実にそんな視線を寄越してくるんだ。同じクラスだから嫌でも目につく。
　不快でしょうがない。
　あまりにも不快だったから一撃食らわせてやりたい衝動に駆られたが、それは何とか堪えた。堪える事が出来た理由は、こいつが向けてくる視線に敵意が込められていなかったからだ。僅かでも敵意があれば何か仕掛けてくるだろうし、そうなれば買ってやらない事もないんだ。
　だが、こいつは言葉では何とも表現し辛い表情で見てくる。二人きりになれば今にも口を開くのではと思わせる程、何か言いたそうに。
　問えば解決するかも知れないが、二度も問う程こいつの思考に興味も無かったボクは、それ以上問う事はしなかった。