I love you に代わる言葉
「……変な女」
 呟きながら、触るなと言われたがボクは破片を集めていく。だってそうだろ。普通「何このガキ偉そうに。お前のせいだろ弁償しろよ!」って思うだろう。弁償までさせなくても、こんな態度で接する高校生の男など「生意気」としか映らないだろう。けど、あの女は違った。
「あ」
 しまった。こうして集めていて気付いた。皿に入っていた商品も割れてしまっている事に。
 その欠片を掴み眼前に持ってくる。何だこれ? それは深みのある紫色した石だった。石に興味は無いから別に知りたいとは思わなかったけど。それにしても皿に一つしか商品が入っていなかった事は幸いしたな。
 そんな事を考えていると、
「……っ……」
 チクリと指先に痛みが走った。痛みを感じる部分を眼前に晒すと、右手の中指から血が出ていた。この変な石の欠片で指を切ったのか。キラキラしてるくせにとんだ凶器だ。
 ちっ、と。本日三度目の舌打ちをした。あの女の事をバカじゃないかと罵っておいて、結局怪我をしたのは自分の方だ。何とも情けない。罵った言葉が口をついていなくて良かったと思う。そうでなければ女に合わせる顔がない。
 小さく溜息をついて、破片を集める手を完全に止めた。血が出ている部分をもう一度見やり、これをどうするかと考える。血は中指を伝っていく。女が戻ってきたらティッシュを貰うか。舐めるのは気が引ける。
「お待たせしました」
 そう言って女は小走りで戻ってきた。箒と塵取りを確認し、手伝う事はないだろうと立ち上がる。
「他のお客様は……居ないみたいですね。ありがとうございます」
 店内をキョロキョロと見渡し客が居ない事を確認すると、女はこちらを向いて礼を言った。それに対しボクは返事をしなかったが、女がそれを気にする事はなかった。
「後は私が片付けますので」
 そう言った女の顔を見た後、ボクはティッシュを貰おうかどうしようかと考えていた。
「あ……」
 女が漏らした声を拾い視線をそちらに向けると、女は床を見ていた。視線を辿った先には、血が、垂れてしまっていた。あ。しまった、バレた。
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