I love you に代わる言葉
「お前、さ……、」
「なに」
「……その、……」
「何なのさ」
 恐らくこれでこいつの視線の謎が解けるんだろう。そう思って口籠るこいつから次に発せられる言葉を根気良く黙って待っていたが、やっぱり面倒で苛々した。
 ちらっと躊躇いがちな視線を向け、またすぐに逸らして。
 徐々に寄せられる眉と細められる目が、苛立ちを示した。溜息をついてこの場から離れようと、組んでいた足を解いた時、漸く言葉が発せられた。
「……その、何か……、人間らしくなったよな」
「は?」
 謎は更に謎を呼んだ。
 怪訝に思うよりまずこいつの頭を心配した。だけどこいつはそれを告げる前の表情より若干ではあるがスッキリとした顔付きになっていて、ますます意味が解らない。
 それはどういう意味なんだと此処は問うべきなのか。理解不能な発言にそうやって冷静に思考する一方で、あまりに想像の域を超えた発言に思考が停止しそうでもある。
「……悪かったな、日生」
「は?」
 目を逸らしながらぶっきらぼうに謝罪されたが、やはり意味が解らない。言う相手を間違っているのではと思えてくるが、呼ばれた名は正しくボクの名だった。
< 60 / 415 >

この作品をシェア

pagetop