I love you に代わる言葉
「授業サボらず出る様になったのも変わった事の一つだけどよ。それはまぁ、誰が見ても解る。俺が一番変わったと思ったのは、……表情だな」
「……表情?」
「ああ。お前って表情一つ変えなかったから普段何考えてるかマジわかんねー奴だった。ま、バカにして鼻で笑う事はしょっちゅうだったけどな。だけど最近のお前、思い悩んでる表情ばっかりだぜ? ……けどそれでお前に人間らしさを見た気がする」
 ボクは僅かに目を見開いた。そんな事は有り得ないと思うのに否定の言葉が出ない。さっきも同じ様な事を水野センセーにも言われたが、ボクには理解が出来ない。
「俺さ、」
 それは酷く落ち着いた声だった。ゆっくりと顔を上げそちらを見る。
「ぶっちゃけお前にムカついてたんだ」
「だろうね」
「お前って何でも出来るからいっつも余裕たっぷりでさ。俺らみたいな落ちこぼれをバカにしたように笑って……」
 そこで一旦言葉を区切ると、不意に目を伏せ、今井は再び静かに話し出した。
「……だけど心のどっかで憧れる気持ちもあったんだ。俺らと同じ事してる筈なのに頭はめちゃくちゃいいし、女に優しくしないくせに顔はいいから密かにモテるし。クールな所がカッコイーってさ」
 その胸中を聞いて、少なからず驚いた。
「だからお前の弱みを一つでも握ってやりたくてさ、煌宝の女店員と親しいって聞いて、もしお前がマジで惚れてるなら横槍でも入れてやろうと思ったんだよ。で、「惚れてんじゃねーの」ってからかったあの日、夕方その女店員を見に行ったんだ。ついでに話し掛けた」
「!」
 目を伏せ床を見つめながら黙って今井の話を聞いていたが、その事実に驚き、真っ直ぐに今井を捉える。さっきからこいつが言っている女店員とは、十中八九おねーさんの事だ。
「若い女店員が二人居るみたいだけど、『笹山』って女の方だろ? お前が仲良くしてんのは」
 パッと顔を上げて確認するかの様に視線を合わせてきた。
「……、」
 だけどその視線に揶揄は感じられなくて、否定も肯定もし損ねてしまった。無言を肯定の意と捉えたのか、今井はまた正面を向いて話し出した。
< 62 / 415 >

この作品をシェア

pagetop